​デザインと生産

KEIのものづくりの仕方は、オーダーメイドやアパレルといった業界の中で一般的ではありません。お客様からの受注はもちろん、寸法や仕様を含めた服の設計から資材の調達に至るまで、あらゆる工程に携わっています。そうすることでしか私たちのやりたいこと、つくりたいものは実現できないのです。詳しい背景はこちらをお読みください。

この記事では、1着のシャツに詰め込まれた私たちの想いとこだわりの一部をご紹介します。まずは実際の製品において最も目に見えやすい形で現れる「縫製仕様」から始めて、上流工程へと遡っていきましょう。


縫製仕様

「服を縫う」という作業は未だに機械に代わられることなく、人間の手で行われています。ミシンを走らせ布を縫い合わせる技術は、一朝一夕で手に入るものではありません。地域の中で世代を超えて培われた縫製技術のもと、手間を惜しまず最上級の仕様でお仕立てしています。

  • 本縫い(巻き伏せ縫い)

    身頃や袖を縫い合わせる際の縫い方の一つで、文字通り生地の端を巻き込んで伏せて縫う縫い方です。縫い合わせた生地の端が服の裏側に露出するロック縫い(専用のミシンを使う簡易的な縫い方)に比べ、多くの工程を要します。見た目の美しさはもちろん着心地や耐久性も格段にアップします。

  • コンストラクションヨーク

    通常のヨークとは異なり、表側にステッチが出ないコンストラクションヨークを採用しています。こちらも手間はかかりますが、見た目の美しさと耐久性に大きく差がつきます。

  • ガゼット(ガジェット)

    元々は前身頃と後身頃の縫い合わせ部分が裾から裂けないよう補強するためのパーツでした。縫製技術が向上した現代では不要とされていますが、歴史と伝統への敬意を込め、アクセントになるデザインとして取り入れています。

  • 水平ボタンホール

    通常は垂直方向である前立てのボタンホールを一番下だけ水平方向に倒し、座る際や食事などで微妙に変化するウエストにゆとりを確保できます。また水平方向の引っ張りに強く、ボタンが外れにくくなります。

  • 鳥足掛け

    手縫いでしかできないボタンの付け方で、付け糸が鳥の足のように見えることからこう呼ばれています。重心点が下にずれることでボタンに僅かな傾斜がつき、留め外しをスムーズに行うことができます。(一般的なクロス掛けもお選びいただけます。)

パターン

衣服の設計図となる型紙のことをパターンといいます。生産委託先の工場に依存しているブランドがほとんどの中、私たちは設立当初よりオリジナルのパターンでの生産を行なっています。製品の核となるパターンに、KEIのブランドとしてのこだわりが詰まっています。

オーダーメイドの衣服には製作工程の違いによって3つの分類に分かれますが、当サイトのオーダーシャツはマスターとなるパターンからご注文のサイズに合わせて細かく調整する「イージーオーダー」と呼ばれる分類に属します。当然お客様のご注文ごとにデザインもサイズも異なるため、1着ごとに専用のパターンを用意する必要があります。

すべてのパターンの元になるマスターパターンと、そこから各サイズに調整するグレーディングという工程が、衣服を作る上で最も重要だと言っても過言ではありません。そういったものづくりにおける地味な部分こそがブランドとしての表現の本質であると考え、真剣に向き合って舵を取っています。

  • KEIオリジナルの仕様として、1タックの袖をご提供しています。通常は2本ある袖のタック(余裕を持たせるための“ひだ”)を1本に減らすことで、肘からカフスにかけてのダブつきを防ぎ、袖周りがすっきりと美しく仕上がります。代わりに目につきにくい肘付近に“隠しタック”を1本施すことで、腕の動かしやすさはそのままにスリムな着用感を実現しています。(一般的な2タックもお選びいただけます。特にカジュアルシーンには2タックがおすすめです。)

  • 衿羽から台衿、そして前立てまでが一枚の生地で繋がっている(一枚仕立て)衿型を6種ご提供しています。この種の衿の魅力を決定するのは、衿の開き具合と立ち具合です。悪目立ちしない華やかさを目指して、衿羽の大きさや角度そして身頃のボタンの位置など細かく条件を変えながら試作を繰り返し作り上げました。

    ※一枚仕立ての衿型…イタリアン/イタリアン(ボタンダウン)/イタリアン(カッタウェイ)/イタリアン(スタンド)/ワンピース/ワンピース(ボタンダウン)

  • 通常の寸法指定に加えて、体型補正もご用意しています。袖の太さ/反身屈身/いかり肩なで肩の3つを適切に補正することで、着心地やシワの改善に繋がります。各体型補正について詳しくはこちらをご覧ください。

  • サイズとして寸法が指定されない箇所も、全体のサイズに見合うよう細かくグレーディングを行なっています。例えばアームホール周りやウエスト位置など着心地に大きく関わるものから、身頃のボタンやポケットの位置、ヨークの長さなど着用に直接は影響のない部分までお客様のお身体に合わせて調整します。

  • 着心地やシワなど、シャツの着用に関してお悩みがある場合はお気軽にご相談ください。マイサイズ機能ではカバーしきれない箇所の調整でご対応できる可能性があります。自社でオリジナルのパターンを所有しているからこその強みです。

生地の選定

生産前の段階でもご紹介したいことがあります。取り扱う生地の選定についてです。

正直にお話しすると、私たちは大手企業のように多品種の生地を大量に調達して在庫を抱えるようなモデルでは運営できません。だからこそ、入荷されるのは自ずと厳選された生地ばかり。実物を手に取り、素材や加工、産地、生産工程などの情報と照らし合わせ、本当に良い物、私たちが良いと思える物だけをお客様にお届けしています。

そうして過剰在庫、不良在庫を防ぐことによって、お客様に価格という形でも還元することができるのです。